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餓鬼

 

 ざわりと闇が騒ぐ。
 研ぎ澄ました意識に、数知れぬ気配が絡みつく。
 未練がましく伸び来る、幾多の腕。
「・・・五月蝿ぇ」
 低く吐いた呟きにも、衣を掴んだ手は離れず、とうに意味も音も失った声を上げる。
 一歩間違えれば、己がこうなっていたかもしれないとは言え、哀れむ気にはならず、また、哀れむべき責もない。
 ゆるりと傍らの斬岩剣を引き寄せる。
 そうして一閃。
「てめぇらのいる場所じゃねぇ、ここは」
 後に残るはただ暗闇。

 

餓鬼道。>>>

2002/08/03 掲載。