>保管庫
星今宵
寮に戻ったとき、そこには何やらあわただしい雰囲気が漂っていた。
軒先に横たえられた物体の周囲を何人かの塾生が行き交っている。
「おい、一体何があった」
己同様に、何事かと立ちすくんでいたJを見つけ、声をかける。
しかし、問われた方も、あいにくさっぱり、といった様子で小さくかぶりを振るのが精々だった。
「どうも、何かの準備らしいが・・・」
「準備?」
またろくでもないことを誰かがはじめやがったな、と思わず表情が渋くなる。
巻きこまれる前に消えるかと伊達が思い始めたその時、無益に立っていた彼らを見つけた虎丸の声が先手を打っていた。
「お、丁度いいところにいた。これ、お前らの分な」
そう言って有無を言わさず、細長い紙切れと紙縒りが手渡される。
「一体何だ、これは」
「見りゃわかるだろ。七夕だよ、七夕」
「はあ?」
「・・・そういえば聞いたことがあるな。祭りの一つだろう?」
顔を顰めた伊達の傍らでJが頷く。
「まあ、そんなもんだな。それに願い事を書いてあの竹に結んどいてくれ」
「・・・あれの何処に結べって?」
指差す先にあるのは、これでもかと言うほどにさまざまな色紙で埋め尽くされた竹が一本。
「心配すんな。今、松尾たちが探しに行ってるからよ」
「おーい、今帰ったぞー」
「噂をすればってやつだな。おーい。あったのかー?」
正門から響いた声に虎丸をはじめ、何人かがそちらへ向かう。
ここは祭好きな連中の集まりだったのか、と手の中の短冊を眺め、Jに呼び止められたらしい相手に問い掛ける。
「おい、桃。てめぇ、なんて書いたんだ?」
まあ、ろくでもないことに付き合うのも、たまには悪くない。
2002/07/07 掲載。