>保管庫
魂の剥製
人間に限らず、肉体あるいは死体を保存しようとする場合には、大きく分けて三種類の手段がとられる。
第一に、肉体あるいは死体そのものに防腐加工を施し、標本として保存する方法。
第二に、肉体あるいは死体を図版に写し、図像として保存する方法。
第三に、肉体あるいは死体に替えて人工物を利用し、模型として保存する方法。
では、魂は如何にして保存するのか。
動物の皮を剥ぎ、剥製を作ることを生業とした「剥製士」たちは、その見えざる魂を剥製にせぬことには、「剥製士」は毛皮職人に等しいと考えていた。そうして彼らは、「魂の剥製」を作る手法を確立することに、心血を注いだのである。
彼らの努力が実を結んだかどうかはわからない。
なぜなら、彼らが残したとされる資料は、奇怪な文字によって記された、「魂の剥製に関する手稿」と呼ばれる42葉の手書きの写本と、「魂の剥製」を作るときに使ったとされる針と糸のみであり、「魂の剥製」そのものは残されていないのだから。
ぱたりと本を閉じて、アルフォンスは、自分の胸甲に触れてみる。
建物自体も骨董品のような書庫。
その中に納められた多くの本の中の一冊。
それは、自分たちの求めるものではなかったけれど。
剥製士たちが求めた魂の剥製。
それは、もしかしたら自分のような形をしているかもしれない、と、ふと思った。
クラフト・エヴィング商會「らくだこぶ書房|21世紀古書目録」とのダブルパロ。[2004/06/03]