>保管庫

魂の剥製

 

 建物自体も骨董品のような書庫には、開架から下げられてきた古い本が並んでいた。
 さほど大きくない、片田舎の図書館と言えども、その数は相当なもの。
 片っ端から見て回るに越したことはないが、流石にそういうわけにも行かない。
 とにかくまずはこの辺り、と、几帳面に分類された棚を見ながら目星をつけ、手を伸ばす。
 その記述は、そんな作業の中で偶然見つけたものだった。

 人間に限らず、肉体あるいは死体を保存しようとする場合には、大きく分けて三種類の手段がとられる。
 第一に、肉体あるいは死体そのものに防腐加工を施し、標本として保存する方法。
 第二に、肉体あるいは死体を図版に写し、図像として保存する方法。
 第三に、肉体あるいは死体に替えて人工物を利用し、模型として保存する方法。

 では、魂は如何にして保存するのか。

 動物の皮を剥ぎ、剥製を作ることを生業とした「剥製士」たちは、その見えざる魂を剥製にせぬことには、「剥製士」は毛皮職人に等しいと考えていた。そうして彼らは、「魂の剥製」を作る手法を確立することに、心血を注いだのである。

 彼らの努力が実を結んだかどうかはわからない。
 なぜなら、彼らが残したとされる資料は、奇怪な文字によって記された、「魂の剥製に関する手稿」と呼ばれる42葉の手書きの写本と、「魂の剥製」を作るときに使ったとされる針と糸のみであり、「魂の剥製」そのものは残されていないからだ。

 ぱたりと本を閉じて、アルフォンスは、自分の胸甲に触れてみる。

 剥製士たちが求めた魂の剥製。
 それは、もしかしたら自分のような形をしているかもしれない、と、ふと思った。

 

クラフト・エヴィング商會「らくだこぶ書房|21世紀古書目録」とのダブルパロ。[2004/06/10]