>保管庫
天河
「・・・私はいつか、貴方を忘れるのでしょうか」
水を湛えた硝子の器。その中でゆらゆらと揺れる蝋燭の焔が、美しく磨かれた石の表面にかすかな影を落としていた。
泉水を覆う細波。ざわりと夜風に揺れる木々。
白いはずの手套が紅く染まったのはいつのことだっただろう。あのときの慟哭は何処に消えたのだろう。
ゆっくりと燃え尽きていく蝋燭のように、記憶も想いも姿を消していく。
中空に宿る半月。
渡る天河。
返る言葉は、忘れてしまえというただ一言。
2001年夏の期間限定原稿。今年もテーマは「死者との逢瀬」。[2001/08/25]