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門火

 

 座り込んだ石畳。立てた片膝に腕を預け、新しい煙草を口元へと運ぶ。
 ライターの炎を揺らす夜風。
「何をなさっておいでですか」
 足元へと落ちる影。問いかける声に、ふと顔を上げる。
 何時の間に現れたものか、そこには見慣れた姿があった。
「・・・貴官、何時からそこに?」
「つい今しがたです。・・・お邪魔でしたか」
「いや・・・」
 手の中の煙草を石面へと横たえ、草薙は小さく首を左右に振る。
 そして、相手の姿を見上げ、言葉を継ぐ。
「・・・貴官が現れるのを待っていた」
「・・・小官をですか?」
 草薙の髪から頬へと触れる指先。
「・・・ああ」
 ゆるやかな夜風に擦れる木の葉。
 傍らで立ち上る紫煙。
 温もりを移さない指先。
 そして頭上に輝くは初秋の月。

 

2000年夏の期間限定原稿。お盆らしく、死者との逢瀬です。[2000/08/17]