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血臭

 

 むせるような血臭。生あるものの気配が漂わぬ空間。視界に映るのは、見慣れた者たちの屍。
 最も近くに横たわる相手を抱き起こそうと、立ちあがった彼の手からすべり落ちる拳銃。足元で響いた乾いた音に愕然とした。
 ・・・この有様は、自分が作ったというのだろうか。
 こつり、と靴音が響く。
 彼の手を離れた拳銃を拾い上げる手。そこには、一人の下士官の姿があった。
「貴官・・・・・・」
 問い掛ける彼を見下ろす、口許に浮かぶ微笑。
「この世界は意志がすべてを決すると言ったのは貴方だ」
 静かな、そして平淡な言葉。
「そして、どれほどの屍を踏み越えても、貴方は立っている。現に、今ここでも」
 撃鉄を起こす音。角度を測るように首筋へと押し当てられる銃口。相手の顔を彩る、作り物めいた微笑。瞼に閉ざされる視線。
「やめろ!」
 悲鳴のような制止の声。そして、銃声。
 目の前で崩れ落ちる身体。言葉を失った彼を包む、鮮やかすぎるほどの血臭。
 周囲に横たわる、見慣れた者たちの屍。
 黒く暗い空気に満ちた世界の中で、生き残されたのは、ただ一人。

 

柊生元帥。下士官は藤原少佐ぐらいでしょうか。[2000/09/24]