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桜坂

 

 桜がすべての花弁を散らして久しい。
 すっかり葉桜になってしまった木を見上げた広石に、風が一陣、吹きつけた。
 四年。
 言葉にしてしまえば、ひどく簡単に思えるが、その月日ははるかに長い。
 ゆっくりと瞼を閉ざし、そして開く。
 四年後、彼が必ず此処に帰ってくるという確証はない。
 四年後、自分が此処にいるという確証は何処にもない。
 ざわめく枝葉が、広石の思考を中断させる。
 葉の緑。空の青。
 頭上から足元へ、ゆっくりと視線をさまよわせ、広石は祈るように瞼を閉ざした。

 

広石少尉視点で児玉少尉。[2000/06/08]