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此処という場所

 

 久しぶりに足を踏み入れた場所は、かすかな違和感を与えながらも、彼を迎え入れた。
 にもかかわらず、やはり年単位での不在は、この場所にも彼自身にも作用し、身の置き所を失ったような喪失感、あるいは気兼ねが、彼を人気少ない廊下の隅に押し止めていた。
「やっぱりここにいた」
 不意に、聞き慣れたというよりは、まだ懐かしい声が、旋回がちな思考に割って入る。
 一瞬遅れた敬礼動作に、何か知らず、内心で舌を打つ。
「何か・・・?」
 早足に駆けてきた相手に、急なことでもあったかと尋ねれば、小さく首が左右に振れた。
「まだきちんと挨拶もしてなかったと思って」
「・・・挨拶、ですか?」
「そう。お帰り、児玉少尉」
 差し出される手套に包まれた右手。
 その手を握り返すことにためらいがなかったと言えば嘘になる。しかし、思ったより簡単に、その言葉は口をついて出た。
「・・・ただいま、戻りました」

 

久しぶりの帝國話。今でもサイトを訪れてくださる臣民の皆様に感謝をこめて。[2005/08/17]