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服喪

 

 崩れ落ちた岩肌は洞窟の存在を元のように隠してしまった。そうして、そこに積み重ねられた月日のままに、大雨による土砂崩れと同化したその場所を見分けることも、もう容易なことではなかった。ましてや、周辺の道を塞いでいたすべての土砂が取り除かれ、次の崩落を防ぐために土嚢が積み上げられた現状では、最早その存在をうかがうことさえ不可能だ。
 しかし、それでも草薙大佐には、自分が間違いなく洞窟の前に立っているという自信があった。
 間違えるはずがない。その思いは、幾許かの痛みを伴って、彼の中にあった。
 事実、彼は覚えている。洞窟の闇を。墓場の如き街並を。そして、土砂に埋もれているだろうその存在を。
「・・・莫迦だな、お前は」
 手套に包まれた右手が、ゆっくりと、積み上げられた土嚢の一つを撫でる。いつか、『彼』の頭を撫でたように。

『コレハ《銃》デス。コレハ《刀》デハアリマセン』

『《草薙大佐》、《カッコイイ》』

 記憶の中で繰り返される言葉。光景。感情。
 撫でていた掌は、いつしか握り締められ、土嚢へと叩きつけられる。
 無言の慟哭。

『ワタシハ《ロボット》デス。ワタシハ《人間》デハアリマセン』

『《イイコ、イイコ》』

 それは、彼以外に誰も悼む者がいない、『彼』への服喪。

 

「vol.23」の話。[2002/01/11]