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風音

 

 やまぬ水音と木々のざわめき。
 噴水を囲う縁石に腰を下ろし、風間少佐はそれらを聞くともなく耳にしていた。
 短くなった煙草を足で踏み消し、新しいものに火を点ける。
 それが何本目になるのか、思い出すのは難しかった。
「・・・誰がいるのかと思えば」
 不意にそんな声が背後から響く。
 ふり返れば、苦笑めいた表情の春木大佐の姿があった。
「一体こんな時間に何をしている?」
「風の音に眠り損ねたのです。春木大佐こそ、いかがなさいましたか」
「貴官と同じだ」
 傍らに歩を進め、春木大佐は倣うように煙草に火を点ける。
「気にならないときは一向に気にならないものだが、一度耳につくと不思議なことに、どうしても払えないものだな」
「そうですね」
 ゆるりと立ち上る暇もなく吹き散らされる紫煙。
 同じように吹き千切られた雲の間から、月が顔を見せる。
 ふと見上げたそれは、獣の爪のようにも薄い曲刀のようにも見えた。

 

[2000/07/05]