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深空(みそら)

 

 枝を大きく広げた古木から舞い散る無数の花弁。
 周囲に漂う甘い花の香。
 空の青と梅の紅。
「遠くから見ると、死体みたいに見えますよ、広石少尉」
 くすくすと笑い声を帯びた言葉が花弁に混ざる。
 仰向けに寝転がった姿勢のまま、首をそらせるようにして声の主を探せば、長沢少尉の姿が視界に入った。
「いったい、何をやってるんですか、こんな処で」
 傍らにしゃがみこみながら、長沢少尉が問い掛ける。
「いや、別に。昼寝のつもりだったんですが」
 むくりと上体を起こした背中から、ぱらぱらと芝生がはがれ落ちる。
「ああ、でも、綺麗ですね」
 腕やら肩やらを叩く広石少尉の傍らで、のんびりと長沢少尉が口を開く。
「こういうのも花吹雪って言うんでしょうかね」
「・・・さあ?」
 応えながら広石少尉は煙草を咥え、火を点ける。
「桜ほど花弁が大きくないですから、また違った感じがしますよね」
「そうですね」
 同じように風に流されながら、花弁とは反対の動きを見せる紫煙。
 花弁は止まず、散り続ける。

 

[2000/02/29]