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陰雨

 

 立ち上る紫煙の行方を、意味もなく目で追ってみる。
 細い煙はゆらゆらと高みを目指し、いつしか拡散して消え失せる。
 耳につくのは、降り止む気配のない雨音。
 そして、せわしなく時を刻む秒針の音。
 訪れる気配のない睡魔と、理由のない陰鬱にかすかな苛立ちを覚える。
 そのことに更に苛立つ自分に気付き、風間少佐はふと不愉快げに表情を歪めた。
 咥えていた煙草を足元の石畳へと捨て、軍靴で踏み消す。
 あたかもそれがこの不愉快さの根源であるかのように。
 湿気を孕んだ空気の匂い。
 あとに残ったのは、泥に汚れた吸殻が一つ。

 

[2000/01/27]