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悔恨
「ああ、まだ起きてたんだ」
門限というよりは消灯時間に近い時間に帰ってきた同室は、まずそんな言葉を呟いた。
「当然だろう。帝國騎士団の一員になれるかどうかは次の試験にかかってるんだ。1分1秒だって惜しいのは君も同じだろう?」
「・・・そうだね」
「それよりもよく入れたな。門限はとっくに過ぎてるっていうのに」
「ああ・・・遅延届を出してあったから」
「へえ、あの舎監がよく認めてくれたものだね。流石、学年上位なだけはある」
「そんなんじゃないよ」
羽織っていたコートを脱ぎながら呟かれた言葉は、どこか吐き捨てるような響きがあった。
「 ・・・」
その響きを聞き咎め、口を開きかけた彼は一瞬躊躇い・・・結局、閉ざした。
それは、些細な出来事として普段なら記憶にも残らないようなこと。
そして、そのときは彼も忘れたのだ。いつものように。
同室が任官試験の受験を取りやめたと聞いたのは、それから3日後のこと。
あまりにも突然過ぎる話に、寄宿舎へ飛び帰れば、同室だった少年は、鞄一つを抱えて出て行こうとするところだった。
「・・・僕が試験を受けないと聞いて、咎めにきたのかい?」
「そうだよっ、だけど、いったいどういうことだよ、これは!」
もともとそれほどあるわけではない私物の一切が奇麗に引き払われた部屋に気付き、彼は少年を問い詰める。
「除隊願いが受理されたんだ」
声を荒げた彼とは逆に、少年は静かに告げる。
「除隊?! なんで除隊なんか・・・っ、そんなこと一言だって・・・っ!」
「うん、言わなかった。相談もしなかった。君だけじゃなく、誰にも。きっと君は怒るだろうと思ったけれど」
皙い頬に幽かに浮かぶ笑みはひどく儚く見えた。
その表情にすべての言葉を封じられた気がした。
「・・・君ならきっと合格するよ。僕が保障する」
そう告げて、少年はさほど大きくない鞄を持ち上げる。
「・・・さようなら」
そうして、同室だった少年が病魔の前に屈したと聞いたのは、それからしばらくの後。
奇しくも、彼の帝國騎士団への入団が決定した日のことだった。
[2000/01/23]