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存在の萌芽

 

 闇。
 涯のない暗黒が己を取り囲んでいる感覚に囚われる。
(ここは何処だ)
(自分は何故ここに存在している)
 そんな疑問が音もなく去来する。
 訪れた疑問は足元へと溜り、蜘蛛の糸のように思考に絡み付いていく。
 そうして、最後に形作るのは『不安』。
(自分は、何者だ)
 存在の根源を揺らがせる『疑問』。
 瞬間、『己』を構成する輪郭さえも曖昧なものへと変じていく。
 指、腕、肩、脚、身体、首。
 自分の眼は、開いているのか、閉じているのか。
 それさえもわからなくなる。

「ならば問おう。『己』に『疑問』を感じるその『意識』は何者か」

 不意に声が響く。
 気付けば、遥か前方に見慣れた演台。見慣れた人影。
 闇に染まらぬ、鮮烈な存在。

「答えよ。貴官は『何者』だ」

 投げかけられる問いかけ。
 無意識に自身の胸元を握り締める右手。
 融解した輪郭が形を取り戻す。

「答えよ!」

「・・・・・・・小官は・・・・・・」
 声が僅かに擦れる。
 握り締める指先。

「小官は第9公國最高司令官、秋山祐少佐です!」

「ちゃんとわかっているではないか」
 朗笑の成分を含んだ声。
「わかっているのならば迷うことはない。貴官はここに存在している」
 視界に広がるのは見慣れた光景。
「さあ、式典が始まる。配置につけ」

 

そこに「第14帝國」が出来るまで。[1999/12/30]