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戦死者

 

 時間がゆっくりと進んでいく。
 傷口からは鮮血が溢れつづけ、指先もどんどん冷えていくのに。
 何故、意識だけはこんなにはっきりしているのだろうと少し、可笑しくなった。
(お逃げ下さい、春木大佐)
 敬愛する上官に向かって、祈るように呟く。
 無論、届くはずはないのだけれど。
(死なないで下さい)
 ずっと憧れ続けた存在。
 第11公國の最高司令官として、帝國騎士団の一員として。
 皇帝陛下のもと、楠本柊生帝國元帥のもと。
 数々の戦歴を重ねてきた、敬愛すべき上官。
(貴方にお会いできて、幸せでした)

 粛々と運ばれていく戦死者の中のひとつに、ふと目がとまる。
「どうかしましたか、春木大佐」
「・・・いや」
 下士官の問いかけに、僅かに首をふりつつも、春木は再び戦死者の列へと目を向ける。
 そして、祈るような面持ちで敬礼姿勢をとった。

 

「式典に存在しない」リッターの話。[1999/12/04]