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獣葬

 

 ぼんやりと見上げた先に手を伸ばせば、指先が届きそうな気になる。
 立っているより低いこの姿勢では、届くはずもないのに。
 高いのか、低いのか。硬いのか、柔らかいのか。知っているのに、判じることが出来ない。
 悪い夢だ。わるいゆめ。支離滅裂な思考回路。動かない身体。
 ぎちりと胸骨のあたりに食いつかれる。肉が引き千切られ、食い荒らされる。
 血は流れない。
 当然だ。傷口から血を噴出すのは生きているときだけだ。心臓が動いていればこそだ。
 心臓が止まれば血は体内を流れない。切り口からこぼれはするだろうが溢れない。
 食われる。
 食われている。
 手も。足も。腕も。腹も。
 すべて食われてしまえばいい。
 食っているのは誰だ? 食われているのは?
 見上げるかたちの視界に天井が映る。手を伸ばせば届くだろうか。ゆらりゆらりと木目が揺れる。
 これは夢だ。性質の悪い、ただの夢だ。

 

微妙に「祝葬」の対。[2004/01/04]