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誰に向かってか是なる

 

 古木の根元、眠り込む桃の姿を見るなんてのは珍しいことじゃない。
 けれど、それが見せ掛けだけのものなのだと気が付いたのはいつだっただろうか。
 おそらく、今ここで、少しでもあいつを害する素振りを見せれば、きっと簡単に目を開けるだろう。
 おっかない起こし方だとかなんとか言って、いつもの飄々とした態を崩さず。
 それとも、正気を問うてくるだろうか。
 足元の枯れ枝を蹴り上げる。
 手のひらに収まったそれでも、充分な凶器になりうる。
 それだけの技術技量はあるはずだ。お互いに。
 俺はあいつを信頼してるのか。あいつは俺を信頼してるのか。

 ざくりと落ち葉が音を立てる。

 

伊達視点で桃。題名は高適の七言古詩「邯鄲少年行」から。[2003/11/27]