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落椿

 

 落ちた椿が血溜まりのように見える。
 そんなことに「震え」を感じる己がひどく愚かしく思えた。
(馬鹿馬鹿しい・・・)
 心の中で吐き捨てて、足元の花首を軽く蹴り飛ばす。
 項垂れた頭を見下ろして、声をかけるまでに、さほどの時間は要さなかった。
「いつまで寝てやがる、お前は」
「・・・ああ、伊達か」
「"ああ"じゃねぇ。とっとと起きやがれ。風邪でもひきてぇのか」
「それも悪くないな。お前が看病してくれるなら」
「誰が。そういうことは飛燕にでも頼むんだな」
「それもそうだな。お前に頼んだら何をされるか分かったものじゃない」
「勝手に言ってろ」
「拗ねるなよ」
 苦笑した桃の手がするりと左腕を絡めとる。
 触れる唇は左手首の内側。
「・・・冷たい手ぇしやがって。いったいどれだけここに居たんだ」
 振り払うともなく、巧みに己の腕を奪い返して毒吐く。
 背筋の冷える感覚。錯覚とは分かっていても、どうしても抑えることは出来なかった。
 落ちる椿がやはり血の色に見えた。

 

みなせあきらさんがイラストを描いてくれました。万歳。[2002/04/21]