>保管庫
遠花火
ぽん、ぽぽんと、想像するよりは割れてぼやけた、軽い音が耳に届く。
どこかで花火が上がっているのだと思うより、一足早く、がらりと開いた戸口から、同輩の声が響いた。
「花火がはじまったぜ」
よく聞けば、みしりと頭上の軋む音もする。気の早い連中はすでに屋根の上にいるらしい。
「おぉい、桃」
「早く出て来ねぇと見逃しちまうぞー」
「今行く」
花火は天上への報。消息の手段。
同輩たちに急かされるように立ち上がりながら、そんな言葉を不意に思い出した。
ぽぽん、ひゅるりと、相変わらず遠い音が続いている。
桃。文中の「消息の手段」という表現は新聞に引用されていた言葉から。[2005/08/14]