>保管庫

換気扇

 

 脱衣場に続く引き戸を開けると、かすかに煙草の匂いがした。
 寮内の喫煙者の数は決して少ないものではないから、ある意味当然といえば当然なのだが、浴場の硝子戸を開けると、見慣れた同窓の姿があったのには、正直なところ、少々面食らった。
「・・・なにやってんだ?」
「・・・見りゃわかるだろ」
「そりゃな。つか、なんでこんなとこで吸ってんだよ」
 道具入れなんてものがないおかげで、常に無造作に壁に立てかけられている長柄ブラシを引き寄せ、浴槽の縁に腰掛けた相手の前に立って問いかける。
 ひょいと指先が頭上の換気扇を示した。
「食堂でもいいじゃねぇか」
 換気扇が回る音に、ざあざあと昨夜から降り続く雨音が混ざる。
「別にここが悪いわけじゃねぇだろ」
「・・・まぁな」
 ぼりぼりと頭を掻きながら、小さくひとつ、息を吐き出す。
 そのまま天井を仰いで、掃除の中止を確定させた。
 あとで床に水でも撒いとけば、多少誤魔化しはきくだろう。
「なあ」
「・・・なんだよ」
「一本分けろよ。黙っといてやるから」

 

とりあえず片方は虎丸のはずで、もう一方は富樫か伊達のつもり。[2004/07/14]