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日日是好日・冬

 

 それは一晩中、雪の降り続いた翌朝。

 どさりと音を立てて枝から落ちる雪に驚いた雀が飛び立つ。
「おーい。外見てみろよ、外」
 窓の外は一面真っ白で、その一言を呼び水に、少なからぬ連中が我先に表へと飛び出していった。
 そうしてあっという間に雪合戦が開始される。
「おっ、伊達」
「よっしゃあ、お前ぇも道連れじゃあ」
 なんだ、騒々しいと廊下へ出てきた伊達を目敏く見つけたのは富樫で、虎丸と二人、有無も言わさぬ勢いで、その腕を掴んで、ずるずると半ば無理矢理表へ引っ張り出す。
「しょうがない人たちですねぇ」
 傍観半分諦観半分、その様を見送った飛燕は、食堂に火を入れるため、部屋を後にする。
 伊達を人身御供に仕立て上げたのだから、そのくらいはしておかねばなるまい。
 なにより、外へ飛び出した連中が、いずれ悴んだ手足を抱えて雪塗れで帰ってくるのは目に見えている。
「雷電、月光、手伝ってくださいよ?」
「うむ」
「承知した」
 結局のところ受動的共犯である彼らに断る理由はなく、いつになくにぎやかしい寮内を逆行し、三人連れ立って食堂へと向かう。
 一方、玄関から一歩外へ踏み出せば、そこは既に大混戦の様相で、彼方此方でこけつまろびつ、誰彼構わずの応酬が繰り広げられている。
 そうなれば、状況の呑み込めない者には、格好の的とばかりに飛礫が集中するのが道理。
 この積雪の中、律儀に日課のロードワークに出ていたらしいJも例外ではなく、その道程から戻ってきたところで突然この乱戦に巻きこまれ、たちまち防戦一方へと追いやられる。
「一体何事だ、桃」
 四方八方から飛んでくる飛礫をかいくぐり、状況の説明を求める間にも、遅れて出てきた連中を加え、戦線は拡大していく。
「投げろ投げろ」
 避けるばかりの伊達に発破をかけつつ、虎丸はせっせと足元に雪玉を積み上げていく。
 片腕に山と雪玉を抱えた富樫の学帽も既に雪塗れている。
 見れば、目の届く範囲全員が似たか寄ったかな状態で、中には出来そこないの雪だるまのような者もあった。
 ひゅん、と狙い澄まされた勢いで飛来した雪玉を躱せば、にやりと笑う桃と目が合う。
「・・・野郎」
 ふつりと沸いたのは、競争心か、敵愾心か。
「・・・おい」
「ん?」
「投げりゃあいいのか、これを」
「おうよ」
「がつんとぶつけてやれや」

 なんだかんだと、奴らは今日も元気です。

 

[2003/11/22]