>保管庫
生まれては別れに向かう
深い谷底に油が撒かれ、火が放たれる。
一瞬にして燃え広がる炎と、不快な匂いを放ちながら立ち上る煙。
自分はただ茫然とその光景を眺めていた。
恐ろしいとか、厭わしいとか、忌まわしいとか、そう思うことすら、出来なかった。
「・・・起きたのか?」
視界を射た陽光と上から降る声を訝しむ。
認識と記憶がつながらない。
「伊達?」
確かめるように同じ声に名前を呼ばれて、伊達は、ようやく安堵した。
「・・・・・・ああ」
レスポンデントとしてはやや間延びした返事に、桃が苦笑するのが見て取れた。
ふと、頭を撫でられる。そしてそのまま手のひらで視界を塞がれた。
「もう一度、寝てしまえよ、伊達」
その言葉に誘われるように、手のひらの下で瞼を閉ざす。
最後の瞬間、指の隙間から空の青が覗いた。
題名は、ZABADAK「生まれては別れにむかうわたしたちのために」から。[2003/11/17]