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夜帳

 

 引き摺り上げられるように浮上した意識に瞼を持ち上げると、差し込む月明かりが、視界を灼いた。
 何時の間に眠り込んだか、記憶を手繰りながら、のそりと身体を起こす。
 そうして、壁際に座り込む人影に気付いた。
「・・・ああ・・・」
 そう言えば、久しぶりにこいつと飲んだんだったか。
 まだ何処か霞みがかった意識のまま、膝と手のひらで近くへと這い寄る。
 微妙な姿勢を壁で支えて眠る相手に、器用なものだと場違いに思った。
 余程深く眠り込んでいるのか、目を覚ます気配のない桃の顔をまじまじと眺める。
 呼吸に合わせて上下する胸の動きがなければ、今ここで、こいつは死んでいるのだと言われて、自分は信じるかもしれない。
 こいつの死に際はきっとこんなだ。そんな根拠のない確信が過ぎった。
 そしてきっと、馬鹿みたいな理由で命を落とすのだ。空言のように。
 首筋に流れた鉢巻が幽かに揺れる。
 多分、自分は、この男より先には死なない。
 けれど、この男の死に目に自分が会うことはないだろう。
 もしかしたら、桃が死んだことをずっと知らずにいるかもしれない。
 だから、今こうして、こいつの死に顔を見ている。そんな気がした。

 

伊達。[2003/10/26]