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空殻

 

 羽化する蝉と、そこに集まる蟻。

 ぎりぎりと内臓の何処かが痛む気がする。
 喉の辺りが酷く苦い。
 ざり、と、指が、爪が、土を掻く。
         不快だ。
 理由もなく苛々する。
 手のひらに土塊の感触。
 衝動のままに投げつける。
 狙ったわけではなかったが、それは闖入者の足元に弾けた。
「伊達?」
 驚いた風でもなく問い掛ける表情。
「・・・何の用だ」
「いや、別に」
 相変わらずの飄々さで、すとん、と隣に腰を下ろす。
         苛々する。
 眉間が、側頭がずきずきと痛む。
 湿った土に描かれる条痕。
「ああ、そう言えば」
 思い出したが如く不意に紡がれる言葉。
「先刻の蝉、ちゃんと羽化したらしいぞ」
「・・・そんなことを言いに、わざわざ来やがったのか、てめぇは」
「虎丸たちが手も出さずに2時間も観察して、知らせに来たんだ。そのくらいの手間はかけてもいいだろ」
「・・・馬鹿馬鹿しい」
 吐き出す息に蝉時雨。
 鈍く、やまない頭痛が酷く不快だった。

 

伊達と桃。[2002/09/25]