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水惑星

 

 いつもと変わらぬ喧騒。
 それを足下に聞きながら、よく晴れた空を仰ぐ。
 騒がしいのは悪くない。
 なんでもないようなことで馬鹿みたいに笑いあう。
 たまに喧嘩もあるが、そもそも血の気の多い連中の集まりなのだから、仕方ない。
 それに、本気でやりあうというほどのものではないのだから、御愛嬌ってモンだろう。
 過去に聞こえていた、怒号や罵声よりはよっぽどマシだ。
 そう、よっぽど。
「虎丸」
 呼ばれる名前に足下を見やる。
 見上げる飛燕の姿が見えた。
「なにをしてるんです、そんなところで?」
「いや、別に。天気も良いしな」
「ああ、なるほど」
 言い訳染みている。
 自分でさえそう思った言葉は簡単に受容された。
「確かに良い天気ですね。雲一つない」
 代わりに生じる、後ろめたさ。
「・・・なあ、飛燕よ」
「はい?」
「ラーメンでも食いに行こうぜ」
 一瞬きょとんとした顔がすぐにふわりと微笑む。
「いいですね」
「・・・他の奴らには黙っとけよ」

 

「なにごともなくゆうらりと日が過ぎる 水惑星にかぜは咲きいで」(井辻朱美)[2002/09/01]