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花重/散桜

 

 花を落とした古木の根元に、それは、俯せるように身体を丸めて横たわっていた。
 濡れるというよりは湿るという言葉に相応しい雨は、冷たくこそないものの、温かいものではなく、無視するには少しばかり大きすぎる図体に足を向けた。
 砂利の多い土の上に投げ出された肩が、半径45cmばかりを残してぴくりと反応する。
 剣呑な光を幽かに帯びた視線が、眼球の動きだけでセンクウを見上げる。
「・・・なんだ、アンタか」
「何をしている? こんなところで」
 大儀そうな呟きに問い返せば、閉じかけた眼差しが再度上を向く。
「放っておけよ。アンタには関係がない」
「放っておけ、か。放っておいたらお前はどうするんだ? 桜の下の死体にでもなるつもりか?」
「桜の下の死体・・・?」
「そうだ。よく言うだろう。桜の下には死体が埋まっている、と」
「・・・知らねぇな」
 俯く視線。
 閉じかける気配。
 降りつもる桜の幻影を見た気がした。

 

「桜ちる桜ちるときめしべある花の重みのゆるさるるなり」(井辻朱美)
2002/09/11 掲載。