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兎浪

 

 海には兎が跳ねていた。
 何故、此処に来たのか、覚えはなかった。
 ただ、眼前に広がる風景は、悪くないと思えた。
 絶えることなく兎が跳ねる。
 滅多に荒立つことのない海にしてはその数が多いと、偶々行き会った老人が言っていた。
 兎という言葉も、その老人が口にしたものだった。
 海面に白く立つ波頭のことを言うのだと教えてくれた。・・・いや、正確には、そう、理解した。
 海と兎。それは初めて聞く単語のように感じられた。
 以前に海を見たのはいったい何時のことだっただろう。
 足元に寄せ来る波を冷たいと思う。
 海には兎が跳ねていた。

 

伊達。みなせあきらさんの「涙そうそう」によせて。
2002/08/08 掲載。