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桜木

 

「わからねぇな」
 見上げた視線を動かすことなくぼそりと呟く。
「どうした?」
「これがもてはやされる理由がわからねぇ」
 顎で示した先に咲き誇る桜。
「理由か。散り際が潔いからと言うがな」
「花が散るのはそれが寿命だからだろうが」
「俺に突っかかるなよ。昔からそう言われてるってだけなんだから」
「それがわからねぇってんだ。だったらなんでこれだけがもてはやされる」
 ふん、と鼻を鳴らしてみせる。
「寿命だから散る。それが潔いってんならどれも同じだろうが」
「まあ確かにな。実は俺もそう思ってた」
 苦笑混じりの同意。
 花は黙って咲いている。

 

伊達と桃。
2002/06/15 掲載。