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花闇

 

 夜中に目が覚める。
 そして決まって一瞬、現実を見失う。
 何度目のことだか既に数える気にもならない。
 自嘲とともに見上げた月は、ひどく青白い色をしていた。
 窓を開け、無造作にそこを乗り越える。
 そのくらいで目を覚ますような繊細な奴らではないことは百も承知だったが、そのことが更に己の異端を際立たせる気がした。
 裸足に土。記憶に馴染みのある感触。
 淡く落ちる影は自分の背後に。
 細かな砂利を軋ませ、たどり着くのは、艶やかに咲き誇る藤の古木。
 はらりはらりと花を降らせるその根元。
 ゆっくりと座り込み、膝を折り、幹へ身体を預ける。
 瞼を閉じればその奥に、闇に揺らめく花灯。

 花房の擦れ合う音に睡魔の足音を聞いた気がした。

 

「夜闇」入眠Ver.
2002/06/09 掲載