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花散夢

 

「花弁が降って来るんだ」
「はなびら」
「見上げていたら、ずんずん足元に溜まっていって」
「埋もれていく」
「そう。それで最後には息をするたび、花弁が中へと入り込む」
「呑みこみながら呑みこまれる」
「それでも降りつづけるんだ。桜の木なんて何処にもないのに」
「変な夢だな」
「でも、悪くないと思うんだ」
「そうだな。何だっけ、あれだな。西行の」
「願はくは桜の下にて春死なむ」
「そう。そんな感じがする。ぴったりだろう?」
「ああ」
「夜桜でも見に行こうか。次の満月に」
「咲いてるかな」
「咲いてなければ咲いてるのを探しに行けばいいさ」
「お前らしい」
「でも、悪くないだろ」
「そうだな」
「ああ、ほら。あそこにも花がつきはじめてる」

 

[2000/07/07]