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交差橋

 

 幾本にもわかれた階段の向こうから姿を現わした真白(ましろ)は、見慣れた、紺のダッフルコートを着ていた。
 年に一度ほど、青藍(あおい)は真白に会いに来る。
 真白と会うのは決まってこの場所で、真白は大抵そのコートを着ていた。
「今年はずいぶん寒い。しかも今日は特に」
 コートのポケットに両手を突っ込んで、真白が呟く。
「向こうは」
「多少寒いよ。冬は寒いほうがいい」
 駅から駅へ、あるいはビルからビル、ビルから駅へ、二人の視界に、途切れることなく人が行き交う。
 人々の多くは寒さに身を小さくして足早に通り過ぎて行く。
「皆は」
「相変わらずだよ」
「そう。良かった」
 足元を通り過ぎて行く車も何処か忙しない。
 冬というのはそういう時期だと、青藍は思っていた。
「例の展覧会は見に行ったのか」
「行ったよ」
「どうだった」
「まあまあかな。あそこはもうちょっと展示の仕方を考えるべきだよ」
「真白はいつもそう言う」
「覚えてない、そんなこと。それより、鉱石展を見に行かないか」
「鉱石展」
「ちょうど向こうのビルでやってる。行きたいだろう?」
「そりゃあ勿論」
「じゃあ、決まりだ。・・・・青藍はどうか知らないけど、もうだいぶ手がかじかんできた」
 そうぼやきながら真白は背中を預けていた鉄柵から身を起こす。
「どうか知らないけどって、こっちもだよ」
「もっと暖かい時期に来ればいいのに」
「いいじゃないか、別に。真冬の怪談も結構乙だろう」
「相手によるよ。美人の幽霊なら冬でも歓迎だけど、青藍じゃな。なんで冬なんだよ」
 追い立てられるように歩く人々の間を、二人はゆっくりと歩き出す。
「忙しない時のほうがふと誰かに会いたくなるものだろ」
「まるで僕がキミに会いたがってるみたいじゃないか」
「違うの?」
 互いの指先を温めあうように、どちらともなく繋いだ手のひら。
 空からは、ひらひらと白いものが落ち始めていた。

 

[2001/01/03]