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彼岸花

 

 河原に、見慣れた人影があった。
 土手のキリンソウ。
 思わず声をかけそうになって、なのに、次の瞬間には躊躇った。
 刈田の匂い。
 同じ瞬間、相手が先にふり向いていた。
 夕焼けを担いだ微笑。
 何故かきまりが悪くて、目をそらした。
 電柱の長い影。
 一瞬の後悔を抱えて顔を上げたとき、そこには誰の姿も見当たらなかった。
 河原の彼岸花。
 紅い紅い花の群れ。
 そうして思い出す。
 あの人がそこに居たのは、もう数えることもやめてしまった、遠いとおい日の光景だったことを。

 

[2000/09/21]