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長月の雨

 

古き世の呪文連ねる遠雷の声(おと)は秘かに長月の空
風渡る黒龍の影はゆるやかなカーヴを描く水田の上
不意鳴りの電話の音に魄は我が身を抜け出し空に彷徨う
川縁りの社に群れる曼珠沙華 斎少女(いつきをとめ)の悲哀の名残
静かなる大気の元に流離うは銀の歌声 金の魂
吹きよする風に途切れる泣き声と砂にひきずる足音遥か
てのひらに握れる十字の銀深く 鎖は揺るる月の哭くごと
狂い咲く月下美人の鎮魂歌 降り出す雨の壁の向こうに
霧雨に染まれる風に声細く 葬送はゆく世の涯の果て

 

[2000/05/13:掲載]