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つごもりの宴

 

行き過ぎる車の音に窓を開け 紙桜(さくら)降らせるつごもりの午後
かきあげる左手をとめ かきみだす 我がえりあしは既に短し
人走り、師走と言はん十二月 時の流れは此処だけ遅し
幽かなる時計の秒針五つ六つ いずれ重なり十二時を告ぐ
“我が庵は” 呟く声の崩れ行く 空虚(うつろ)な響きは北風に溶け
右に見ゆ 霊界目指し天を翔け 砂塵とともに宇宙を彷徨う
“あと八時間” 世界の終わりも此れきりのもの すべては遠い場所での出来事
封筒に封じ込めよう この夏の幻描く三枚の写真
窓の外 咆ゆる鴉が風を生み 海の向こうで嵐を作る
空を裂く 風笛一陣 吹き荒れて 古塚の竹は大きく揺れる
オカリナの鈍き音色は擦れゆき 風に抱かれ消え去って行く
白き尾の仙狐一匹足を止め 仰ぐ先には上弦の月
月影に鬼火揺らめくつごもりのあやかしの宴は未だ終わらず

 

[2000/01/01:掲載]