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水槽の魚

 

 海が近い所為か、雨上がりの町は水族館の匂いがする。
 夕日が海へと傾きかける時間。
 コンクリートとアスファルトで出来た水槽の中。
 いろとりどりの尾をひるがえして、人々は泳ぐ。
 手応えのない「空気」と「日常」という水を掻いて。
 水草のような電柱の陰を自転車が一台走り抜けていく。
 立ち止まれば呼吸が止まるとでもいうように、車は右から左へと走り去る。
 時間とともに翳んでいく匂い。
 アスファルトへと伸びる自分の影。
 そうして、ふと。
 自分自身もまた、この、町という水槽に飼われた魚の一尾であることに気づく。

 

[1999/12/17]