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ありがとう

 

「今度こそお前を元の体に戻してやれると思ったのにな」
「うん。でも、いろいろと面白い研究だった」
「そーだな」
 何度目になるかわからない空振り。
 もっとも、空振り出来るだけ今回はましな方だ。
 ひどいときには、手を出す対象すらなかったりするのだから。
「今度は見つかるといいね」
「そだな」
 ベンチに座ったまま見上げる青空。
「・・・なあ」
「なに、兄さん?」
 思ったままを口にしようとして、ふと思い止まる。
「兄さん?」
「お前、また中で猫飼ってんじゃねぇだろうな」
「えっ、ううん、飼ってないよ」
「嘘つけ。さっきからかさこそ音がしてんだ。見せてみろ」
「飼ってないってば」
「猫じゃなきゃネズミが巣食ってんだ。さっさと出しやがれ」
「兄さん横暴!」
「うるさい。ごまかすなっ」
 そうして、どたばたと駅のホームで繰り広げられる鬼ごっこ。
 勝敗などとうにわかっているけれども。
「アルっ」
 一人ならこんなことも出来やしないから。
 お前を無理矢理ここに引き留めたのは俺自身だけれど。
 お前がいてくれて良かったと、俺が思うのは間違っているのかもしれないけれど。
 それでも俺は。

(お前がいるということに感謝するよ)

 

サイト開設5周年。顔も名前も知らない貴方にありがとう。[2004/12/03]