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血でつながっている

 

「・・・・ねぇ、兄さん」
「ん?」
「ひとつ、聞いてもいい・・・・?」
「何だよ」
「ぼくは・・・・、兄さんの弟だよね?」
 唐突とも思える問いかけに、エドは一瞬きょとんとした顔になる。
 しかし、すぐに大げさな溜息をつくと、ぴっとアルに向かって指先を突き付けてみせた。
「いきなり何を言い出すかと思えば。お前は俺の弟。当然だろ、そんなことは」
「当然・・・・?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ。兄貴か?親父か?妹か?」
「そうなんだけど・・・・」
 俯いたアルがかすかに言い淀む。
 瞬間、すっ、とエドの表情が冷えた。
 無意識に両の手を握り締める。
 それでも、声を上げるのを止めることは出来なかった。
「お前がアルじゃなかったら、錬成なんかするかよっ」
 そして、吐き出した直後に後悔する。何に後悔を覚えたのか判然としないまま。
 じ・・・・、と部屋を照らすランプの火芯が音を立てる。
「・・・・ごめん、兄さん」
「謝るな・・・・」
「・・・・ごめん」
「謝るなっ」
 机へと叩きつけられる右手。
 ゆらりと揺らめいた火影に光の輪郭も揺らぐ。
「・・・・お前が、謝るな・・・・」
「兄さん・・・・」
 そっとアルがその右手に手を伸ばす。
「・・・・ごめんね」
「謝るな」
「じゃあ、なんて言ったらいいのさ」
「・・・・知るか、そんなこと」
「兄さん、ずるい」
「なんでずるいんだよ」
「ずるいよ」
「ずるくない」
「・・・・」
「・・・・」
 水掛け論のような会話は、どちらかが黙ってしまえば、簡単に途切れる。
 聞こえるのは、この時間でも人通りが絶えない街道の声。
「・・・・アル」
「なに、兄さん?」
「・・・・お前は、俺の弟だからな」
「うん。わかってるよ。当然だって言われて、嬉しかった」
「・・・・ごめんな」
「どうして兄さんが謝るのさ」
「・・・・ごめん」
「・・・・謝らないでよ」
 古いが堅牢な机の上で重ねた互いの手は、温度も何も伝えない。
 けれども、その手が、互いがつながっていることを証明する。

 

[2004/02/08]