>保管庫

 

 ひらりと視界を白いものが舞う。
「・・・・雪」
 ふと顔を上げれば、厚く黒い雲から、幾つも幾つもそれは落ちてきた。
「・・・・・・・・」
 広げた手のひらに、腕に、肩に。
 白い結晶の花が咲く。
 触れれば体温に消えるはずのそれは、溶けることなく、あとからあとから降っては積もる。
 冬は、寒い。そして、雪は、冷たい。
 きっとこの身体だって冷えているに違いない。
 けれど、わからない。
 白く凍える息さえない。
「待たせたな、アル」
「兄さん・・・・」
 振り向けば、見なれた姿が門から出てくる。
「何か、いい資料は見つかった・・・・?」
「うーん。まあまあってとこだな」
「そっか・・・・」
「おい、アル」
「何、兄さん?」
「ちょっとかがめよ、お前」
「え?」
「いいから早くっ」
「え、あ、うん」
 気圧されるようにその場にしゃがみこむと、その動きに、雪の塊があちこちから滑り落ちた。
 残った雪をぱたぱたとエドワードが払う。
「先に宿に帰ってりゃ良かったのに」
「でも」
「これでよし。行くぞ、アル」
 くわん、と叩かれた鎧が音を立てる。
 空っぽの音。
「・・・・・・・・」
「アル?」
「・・・・今行くよ」
 立ちあがれば、がしゃがしゃと継ぎ目が鳴る。
 もしかしたら、今、自分は泣きたいのかもしれなかった。

 

[2004/01/13]