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雨に軋る

 

 ぽつりと足元に小さな染みが広がる。
 仰いだ先から立て続けに落ちる水滴。
 急激な雨足は容赦なく全身を打つ。
 足早になる人々。
 その中でエドワードは路傍に座り込んだまま、ただ濡れるに任せていた。
 抱えた膝に額を押し当て、身動ぎもしない。
 ふと、その前に立つ人影があった。
「妙なところで会うものだな、鋼の」
「・・・・それはこっちの台詞だよ、大佐」
「こんなところで何をしている? 君たちは少しの時間でも惜しいのではなかったのかね」
「うるさいよ。あんたには関係ないだろ」
「顔ぐらい上げたらどうだ」
「うるさいって言ってるだろっ」
「・・・・まるで駄駄っ子だな」
 頭上から溜息が降る。
「弟が探していたぞ」
「・・・・わかってるよ」
「ならば、帰るなり隠れるなりすることを薦めるがな」
「・・・・そりゃどーも」
「鋼の」
「・・・・なんだよ」
「悔いるくらいなら最初から選ぶな」
「!」
「それとも最初からその程度の決意しかなかったのか」
「違うっ!」
 がばりと勢いよくエドワードの上体が跳ね起きる。
「ようやく顔を上げたか」
 再度の溜息。
 そのまま、目の前でくるりと踵が返される。
「!・・・・おいっ」
「風邪を引かないうちにさっさと帰るんだな、鋼の」
 そうして、思わず後を追うように立ちあがったエドワードを残し、ひらりと肩越しに手のひらを揺らした背中は、通りの向こう側に停められた車中へと消えた。
 残された側は半ば茫然と、走り去る車を見送る。
 絶え間なく降り注ぐ雨滴。
「・・・・余計なお世話だよ。ちくしょう」
 ぽつりと零れる言葉。
 ぎゅっと握りこんだ拳に、右腕のベアリングが小さく軋んだ。

 

[2004/01/12]