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罪の代償

 

 等価交換。ならばこの悪夢も代償。

 跳ね起きて見つめた両手で顔を覆う。
 洩れそうになる喚き声を喉元で抑えつけた。
 声を上げてはいけない。覚られてはいけない。
 いつしか、両の手のひらは喉の上で重ねられる。
 声を上げてはいけない。覚られてはいけない。
 アルに知られてはいけない。
 ・・・・息が苦しい。

 がたん、と物が落ちる音がした。大きく、そして重たいものが。
「・・・・兄さん?」
 音の発生源をさがして、アルフォンスは扉を開ける。
「また布団から落ち・・・・」
 確かに、部屋の主は床へと落ちていた。
 しかし、それはただ、布団から誤って落ちたというものではなく。
「兄さんっ」
 荒い呼吸と額に浮かんだ脂汗が異常を物語る。
「兄さん、どうしたのっ。苦しいのっ。どこか痛むのっ」
「・・・・ア、ル」
 自分を抱き起こした相手に、エドワードは表情を歪める。
「待ってて、すぐ病院に」
「いら・・・・な・・・・い。大・・・・丈夫だ」
「何言ってるんだよっ」
「何でも、ない・・・・んだ」
 口を開き、言葉を紡ぐことで、身体は忘れていた呼吸の仕方を思い出す。
「兄さんっ」
「何でもないんだ」
 ようやく呼吸困難の苦しさを抜け出し、自分の足でアルフォンスの腕の中から降り立つ。
「・・・・兄さん」
「ほんとに、何でもないって」
 無意識に握り締めて、引き摺り落としてしまった毛布を拾い上げて、あるべき場所へと戻す。
「大丈夫だから。・・・・驚かして悪かったな」
 出来れば、笑って見せてやりたいところだが、まともに顔を見る自信もすぐには見つけられない。
 馬鹿みたいに、「大丈夫」と「何でもない」を繰り返すことしか出来ない。
 知られてはいけない。覚られてはいけない。
 これは自分だけが背負うもの。
 アルからすべてを奪ってしまった自分が背負うもの。

 等価交換。だからこの辛苦も代償。

 

[2004/01/10]