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見て見ぬふり

 

 ぴこんぴこんと兄さんの肩が跳ねる。
 兄さんの左足は機械鎧と呼ばれる義足で、右足は兄さん自身の足だ。
 義足は成長しないけれど、生身の足は成長する。
 だからどうしても、左右の足の長さが違ってきて、ひょこひょことした、特徴のある歩き方になる。
 最初は、小さいだとか豆だとか、そんな言葉に過剰反応をする兄さんだから、左右の足の長さが違うのは身長が伸びている証拠だと、大喜びするかと思ったんだけど、そうじゃないと気がついたのはしばらくしてから。
 左右の違いを指摘したぼくに、兄さんはほんの少し驚いて、そして、プラスよりマイナスの勝った表情になった。

 以降、それはぼくの中で絶対のタブーになっていて、
 今日も、一定の間隔で揺れる兄さんの肩を、見て見ぬふりで追いかけている。

 

[2004/12/11]