>保管庫

花野

 

 千々に吹き乱れる秋草。
 気紛れに吹き荒れる風に煽られるまま、頭上の雲も足早に通り過ぎていく。
「なにやってんだよ、アル」
 足を止め、じいっと上空を見上げる弟の姿に気付いて、先を歩いていたエドワードが引き返す。
 その手に握られているのは、母親を喜ばせようと摘んだ草花。
「早く帰らないと怒られるだろ」
「兄ちゃん、蝶々がいるよ」
「こんな時間に蝶が飛ぶかよ」
「でも飛んでるもん」
 ほら、と小さな手が指を差す先には、ばたばたと羽ばたくシルエット。
「・・・・あれは蝶じゃねーよ、蝙蝠だ」
「蝙蝠?」
「夜に飛ぶ鳥だ。蝶じゃねぇ」
「違うの?」
「違う」
「ふうん」
「ほら、帰るぞ。遅くなったら怒られちまう」
 それでもまだ空を見上げる、アルフォンスの手首を掴み、ぐい、と引っ張る。

 母親の待つ家の明かりはもう少し先。

 

"踏み入りて道はあるもの花野ゆく" 板場武郎
[2004/09/12]