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炎天に待つ

 

 道端の日陰に座り込み、舌の上で飴玉を転がす。
 じっとしていても気分が悪くなるような暑さに、頭がくらくらする。
 本当なら氷でも舐めているほうがいいのかもしれないが、流石に氷は持ち歩いてない。
(あー・・・・、大気中の水分を集めて凍らせるっつー手もあるなー・・・・)
 問題はその加減なのだが。
(そう考えると、大佐って結構器用だよなー・・・・)
 手近なところに転がっていた小石を拾い、記憶の中から錬成陣を書き写す。
 「焔」の二つ名が示すとおりに、火を扱うのに特化した錬成陣だ。
(構築式はわかるんだけどなー・・・・)
 大佐が発火布を擦り合わせる動作を真似てみる。
 当然火花が発生する由もないが。
(あー、でも、火花の発生と同時に対象に向けて方向修正もするってコトだろー・・・・)
 からころと口の中で小さくなっていく飴玉。
 あるのかないのかわからない程度の風が、生温い空気を動かす。
 奥歯が、かろうじて形の残っていた飴玉を噛み潰した。
「ああもうっ、めんどくせぇっ。つか、何でこのくそ暑い最中に炎の発生式考えてんだよ、俺はっ」
 げしげしと行儀悪く、座り込んだ姿勢のまま、踵で錬成陣を消し去る。
「早く帰ってこい、アルー・・・・」
 兄の熱中症を懼れて水を汲みに行った弟は未だ帰ってこない。

 

[2004/07/21]