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海を渡る

 

「ねぇ、兄さん」
 父親の残した書籍に埋もれながら、傍らの兄に話しかける。
「なんだよ」
「海ってどんなかな」
「はぁ?」
「だって、本物は見たことないじゃない」
「そりゃまあそうだけどさ」
「大きいんだよね」
「大きいんだろうな」
「師匠につれてかれた湖より大きいかな」
「大きいだろ、そりゃ」
「しょっぱいんだよね」
「そう書いてあるよな」
「深いんだよね」
「深いんだろうな」
「見てみたいね」
「・・・・そうだな」

 海を見てみたいね。
 そう言うと、兄さんは、お互い塩分で錆びちまうからやめろ、と苦笑した。
 見上げる教会の壁には、海を渡る聖人の絵が掲げられていた。

 

[2004/05/13]