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哄笑

 

 人に非ずといわれてきた結果がこれか。
「・・・・何を笑ってるんだ、兄者」
「笑っていたか?」
「いや、そんな感じがした」
「そうか」
 かつてと変わらぬ弟の物言いに、器用なものだ、と今度ははっきりと愉悦を自覚する。
 表情の何もないこの身体で、よくもまあ読み取るものだ。
 それとも、気配というものはこの身体の方が伝わりやすいものなのか。
「また笑っている。何がそんなに可笑しいんだ、兄者は」
「可笑しいではないか」
「だから何が」
「憲兵どもにとって、我々は"スライサー"というひとつの化け物であったということがだ」
「・・・・・・・・兄者の言うことは時々わからん」
「わからずともよい。単なる戯言だ」
 低く唸る弟に、更に笑いがこみ上げる。
 何が可笑しいのか自分でも判然としない。
 それでもただ、この状況を笑わずにはいられなかった。
 哄笑が、がらんとした空間に響く。
「兄者?」
 そうして、訝しむ弟を尻目に、彼はしばらく笑い続けていた。

 

[2004/03/14]