>保管庫

狭い世界

 

「・・・・なかなか難儀な大将っスね」
「難儀、か。そうだろうな。何しろあるかどうかすらわからない探し物だ」
「違いますよ」
「・・・・"違う"?」
「確かに探し物の方も難儀というか、大変なシロモノですがね」
 ひょい、と手を伸ばし、咥えていた煙草の灰を灰皿へと落とす。
「本当に難儀なのは、あの大将自身でしょうよ」
「・・・・なるほど」
「・・・・ホントにわかってます、大佐?」
「信用されてないな」
「まあ、いいですけどね」
 ぼりぼりと頭を掻いてみせる。
「んじゃま、これ、先日の報告書ですんで」
「受理しよう」
「とりあえず、そいつは後回しでいいですから、他の書類を片付けてくださいよ」
「・・・・誰かのようなことを言わないでくれるかね」
「その誰かからも重々言われてるんですよ」
「・・・・ぐ」
「では、失礼します」
 言葉に詰まった上司に敬礼し、執務室を辞す。
 ふと、廊下の窓をのぞくと、同じ部屋を先に辞していた兄弟が守衛に挨拶し、門を出ていくところが見えた。
「・・・・・・・・」
 互いの生身の身体を欲する彼らの気持ちはわからないでもない。
 だが、それは裏返すと、現在の自分を認められない、ということだ。
「難儀だねぇ、まったく」
 どうにもなりそうもないことを追い求めることも。
 そのことに必死になりすぎて、多くを見落としていることも。
 狭い世界に自分を追い込んでいることも。
 そして、それを本人に告げたところで、認めないだろうことも。
「・・・・・・・・あー」
 吐き出した紫煙の向こう側で、兄弟の後姿は通りへと消えていく。
 無意識に口許に浮かぶのは自嘲じみた苦笑。
「・・・・しょうがねぇなぁ、ほんとに」
 益体もない考えを追い払うように、ひらひらと手のひらを揺らし、ハボックは廊下を歩き出した。

 

[2004/01/31]